談志師匠

先週、立川談志師匠が亡くなりました。

 

そこで談志師匠の高座の思い出を二つ。

 

最初は平成3年5月31日、場所は新宿末広亭です。

なにゆえに日付まで覚えているかというと、

私が最初の転職をする前日だったからです。

 

そのとき私は27歳。

実はいちばん落語にハマっていた時期でもあります。

 

流派の関係で、当時すでに談志師匠が

寄席に出演することはなかったはずですが、

その日はどういう事情なのか、

久しぶりに談志師匠が出演するというので

狭い末広亭は熱気にあふれかえっていました。

 

前座の噺も終わり、

いよいよ師匠の登場です。

 

思いのほか小さな体が舞台のそでから現れ出て、

つつっと中央まで歩み寄ったかと思うと、

大きな座布団にちょこんと鎮座ましました時、

その場の空気がはっきりと変わりました。

 

ただ座っただけなのに、なんというインパクト。

師匠の体だけ、回りの世界から

くっきり浮かび上がってくるような、

そんな錯覚さえ覚えます。

声を出せばまた、お客さんがどっと沸きます。

古くからのファンとのやり取りに圧倒されながら、

私は師匠の一挙手一投足に、どんどん引き込まれて行きました。

いまとなっては噺の内容はよく思い出せませんが、

その場の高揚した雰囲気だけは、

20年たった今でも頭の中に強く残っています。

 

2回目はいまから7,8年前。

最初に見たときの印象が強烈で、

いつかまた師匠の高座を見てみたいと思っていたのですが、

それがようやくかないました。

チケットを握りしめ、霞が関の駅で妻と待ち合わせをして、

期待に胸を膨らませてイイノホールまで足を運びました。

 

しかし…実を言うとその時の印象は非常にあいまいです。

師匠はそのとき既に喉を病んでいて、

声がなかなか通らなかったせいなのかもしれません。

あるいはまた末広亭とイイノホールという

環境の違いのせいなのかもしれません。

 

いずれにしても、

ああもうあのときのような師匠の高座は

見られないのだなあ、

と帰り道思ったことを覚えています。

 

でもいまは便利な世の中。

もしかしたらDVDでも買えば

往時の師匠にまた会えるのかもしれません。

 

それは老後の楽しみにでも取っておくことにしましょう。